蹴球力を鍛える

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「ジョゼ・モウリーニョ『KING OF 監督』誕生ストーリー」

2016年現在、サッカーを取り巻く環境は年々規模を拡大し続け、この世界を題材に扱う読み物が毎年山のように刊行されます。

自伝や戦術論、トレーニング方…切り口は無数に存在する中、本日紹介する本は伝記形式で1人の監督に焦点を当てたものです。

ジョゼ・モウリーニョ、海外のサッカーシーンよりは国内の方に明るい私でも、その名前や主だった功績くらいは知っています。

この本は2006年、彼がイングランドプレミアリーグチェルシーの監督に就任して1年目に出版されました。

バルセロナのヘッドコーチをしていた頃から、ポルトガルのFCポルトで栄光を手に入れるまでのモウリーニョの監督人生が主に描かれています。

本著は伝記なので話の流れは歴史が物語る通りですから、本稿では私が読んでいて面白かった、と感じた部分だけを抜粋して紹介します。

 

①選手が常に全力を尽くすとは限らない

「選手の義務は、全力を尽くして戦うことであり、それは結果とは無関係のものだ」(192)とモウリーニョ自身は語りますが、彼が当初ベンフィカに就任した当初、チームはそれもままならない状態でした。

ベンフィカポルトガル国内では有名なチームであり、かつて栄光をほしいままにしたクラブです。しかし、モウリーニョが就任した年、このチームは没落しかけていました。

「プロである以上選手たちはいかなる状況下でも勝利、そして未来の優勝を目指して日々過ごしている」と私は信じていました。けれどもある状況下ではこの前提が覆されることもあります。

モウリーニョによると、2000-2001シーズン初めのベンフィカの選手たちは「負けることに慣れてしまっていて、悔しいという気持ちすらもっていない。やる気がなく、練習だってほとんどしていなかった。」(26)「また選手たちの消極的態度も気になった。練習で激しい当たりを避けようとするものがいたんだ。シンガード(スネ当て)を付けないでトレーニングをしているんだから、最初から本気で練習をするつもりはなかったのだろう。ベンフィカのトレーニングは、はっきり言って、話にならなかった。毎日、一流と呼ばれる選手たちがグラウンドに集まってきて、ただ適当にポールを蹴飛ばしたり、軽いジョギングをしたりしているだけだった。」(33)

負けが続いたり、それにもかかわらずお金はもらえたり、なんて状況が続くとプロでもやる気をなくすものだ、というのは新しい発見でした。

先日何かのTV番組で「プロになるような選手は全員それまで常勝のチームでプレーしてきた。だから負けがこむ、という状況になれていない」という内容のコメントが放送されていましたが、確かにそうだな、と思います。

モウリーニョはこのチームを一流のモチベーターらしく華麗に解決するのですが、これからはチーム状況を考えるとき、選手のモチベーションについても考えたいと思います。

 

②Jリーグもエンターテインメント的要素を増やすべきか?

日本とポルトガル、ひいては海外のサッカーシーンにおける違いはたくさんありますが、その中の1つに監督同士の舌戦があります。モウリーニョが特にそういうタイプだということもありますが、試合前のカンファレンスで監督同士が舌戦を繰り広げるシーンは海外サッカーにおいてよく見ることができます。監督自体が本当にアツくなってしまっている部分もあるとは思いますが、その実、これはプロレス的なエンターテインメントの要素であると思います。

このようなインタビューでのやり合いやダービーに代表されるチーム同士の因縁等、これらは試合を盛り上げるためのわかりやすいエンターテインメント的要素です。

モウリーニョは敵の監督がインタビューで行ったことをたびたびやり玉にあげ、時には公的に言い返し、時にはインタビューの記事をロッカーに何枚も張り付けて選手を鼓舞します。

一方Jリーグではチーム同士の因縁が話題になることは多くありません(ゼロではない。松本と長野とか、浦和と広島とか)。

まだまだダービーの時期にお祭り騒ぎになるには歴史が浅いし、監督や選手が敵チームを意識的に”口撃”することもあまり見られません。

単純に「欧州が優れていてJリーグが劣っている」という話ではなく、これからのJリーグの発展のために、欧州の良いところ(=エンターテインメント的要素)も意識的に取り入れていってもいいのではないかと思います。

日本には文化的にそういった対立を望めない、ということはないと思います。プロ野球でいえば阪神対巨人の「伝統の一戦」が好例ですね。

ただ、それが行き過ぎるとサポーターもアツくなりすぎて、モウリーニョのように脅迫の電話がかかってきた、なんてことになりかねないので、何事もほどほどが一番ですね。

 

  

雑記

基本的にモウリーニョの友人が、彼自身の言葉を交えつつ、客観的な文体で淡々とした描写が続く本著ですが、2003年のUEFAカップ決勝についてモウリーニョ自身が執筆した箇所は見事でした。

試合経過と自身の心境を実に見事に交え、試合終了までの彼の心の動きや試合の熱狂が鮮明に伝わってくるような文章です。

これを読んでいるとモウリーニョには文才まであったのか、という気にさせられます(翻訳された方も非凡な才能を持っているのだと思います)。良きリーダーは伝え上手ということなのでしょうね。

紹介したほかにも面白い箇所はいくつもあって、例えば負傷した選手の手術に立ち会ったモウリーニョが「これから負傷明けの選手には優しく接しよう」と決意するシーンや、ベンチに座っていると必ず試合に負けてしまうため、「疫病神」と揶揄されているチームスタッフの話など、盛りだくさんな内容でした。

機会があればぜひ読んでいただきたいと思います。

 

以上「ジョゼ・モウリーニョ『KING OF 監督』誕生ストーリー」の書評でした。